あと2点の壁を超える行政書士試験勉強ノート

2021年の行政書士試験をあと2点で不合格になった筆者が、今年こそ合格を目指していく勉強ノート

【憲法・時事】安部元総理国葬と憲法・法律・行政上の問題点!国会・内閣・三権分立などを基本から

はじめに

安倍晋三元総理の死去に伴い岸田内閣は国葬の実施を閣議決定しました。日にちは9月27日に予定されているようです。

 

これが紛糾しており、連日反対デモや署名活動が起きたり、色々な意見が交錯する状況となっています。

 

確かに憲法や行政、国の統治のあり方に及ぶ問題点・論点の多々ある事例で、憲法三権分立、国家統治や行政の根本原理を改めて学ぶ機会を与えているトピックとなっています。

 

この記事では、その辺りを根本から立ち返って整理していきたいと思います。

 

問題になっている点

「揉めてるのはわかるけど、そもそもこれって一体何が問題になってるの?」という方も結構いるのではないでしょうか。

さまざまな記事を見ていると、主にこんなところではないでしょうか。

 

  • 国会が開かれず、審議・決議されていない

  • 根拠法がないまま閣議決定のみで決定

  • 公的行事として税金が投入される

  • 特定の政治家の評価の押し付け

このあたりの問題が憲法(ひいては国の運営あり方)と密接に絡んできますので、順に見ていきましょう。

 

憲法の位置付け。憲法は国の最高法規

そもそも憲法とは一体何か?これが重要なポイントですので、先に触れておきます。

憲法 第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 

要するにこの国における最も力を持つルールです。これの下位ルールとして国会で定められる法律、法律に基づいて行政機関(例えば内閣や〇〇省)が発する命令、その他の下位ルールはこの最高法規たる憲法に反すると無効です。

 

憲法は国家権力が力を持ちすぎると、国民の権利利益を侵害し出すおそれがあるので、国家権力に課されるルールとして定められています。

 

ですので、国会や行政が憲法に反して国民の権利利益を侵害する法律や命令を制定することを禁じているのです。憲法に合致していることを合憲、反していることを違憲、といいます。

 

三権分立(権力の相互抑制)

三権分立は国家の権力が一か所に集中すると、国民の権利や自由を侵害し出すかもしれないので、立法・司法・行政の三権に権力機構を分散して互いに独立させ、それぞれに対して抑制させ合う仕組みです(じゃんけんみたいなものです)。
 
この制度設計も、憲法によって立法権は国会、行政権は内閣、司法権は裁判所と、三権に応じた役割を与えることで実現しています。※中高の公民で図などと一緒によく出てきたやつです。
 
衆議院のHPにも掲載されています。
 
首相官邸HPではアニメーションを駆使してわかりやすく伝えています。

 

 

国会の地位と役割

憲法とは一体何か?を簡単に見てみたところで、次に国会の地位と役割を見ていきましょう。今回は国会が開かれていないことが問題となっています。

国会の位置付けや役割も憲法に定められています。

国権の最高機関、国の唯一の立法機関

憲法 第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

 
一見、この条文だと国会が一番偉いように見えますが、この"最高機関"という文言は、国会が国政の中心的地位を占めることを強調する政治的美称と考えるのが多数説です。
国会は他の三権、内閣・裁判所よりも高い地位にあるということを明記したわけではない、という考えです。
※国会も内閣からは衆議院の解散権、裁判所からは違憲審査権により抑制を受けています。
 
とはいえ、立法という極めて重要な役割を担う機関であることには変わりありません。
 
"唯一の立法機関"とは、以下の2つの意味です。
  • 国会による立法以外は原則許さないこと(国会中心立法の原則)
  • 国会による立法は、原則として国会以外の参与を必要としないこと(国会単独立法の原則)
立法という重要な役割を憲法によって専権的に任された機関といえるでしょう。
最高裁判所の規則制定権や、地方自治特別法の住民投票など、国会以外で定める例外はあります。
 
第四十三条 
1項 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2項 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

この"全国民を代表"の意味についても、政治的代表、と捉えるのが通説です。

つまり、代表機関の行為が法的に国民の行為とみなされるという意味ではなく、国民は代表機関を通じて行動し、代表機関は国民意思を反映するものとするという政治的な位置付けです。

 

議会を構成する議員は選挙区の有権者の投票、後援団体の後押しなどで当選するのが一般的ですが、議会においてはそういった人々だけの代表でなく、全国民の代表として、自己の信念にのみ基づいて発言したり、考えを表明できるという意味合いもあります。

 

国会について色々と書いてきましたが、選挙を通して選ばれた国会議員が国民の代表として位置づけられ、ここで立法が行われる極めて重要な機関といって差し支えないでしょう。

 

内閣の地位と役割

では続いて内閣の役割を見てみましょう。今回、国会にかけないで内閣の閣議決定だけで決めてしまったことが問題視されています。内閣の位置づけと役割も憲法で規定されています。

憲法 第六十五条 行政権は、内閣に属する。

行政権とは、すべての国家作用から、立法作用と司法作用を除いた残りのものです(これを控除説といいます)。立法、司法、それ以外は全部行政。

そう考えると、行政権はかなり広範で膨大な国家作用に及ぶということが分かるかと思います。

 

憲法 第六十六条 
3項 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

憲法では内閣の国会に対する連帯責任が定められています。この責任は具体的な法的責任ではなく、政治的責任と考えられています。

 

法律による行政の原理

ということで、この国で行政権を担っているのは内閣です。

行政法の基本原理には、法律による行政の原理、というものがあります。

 

これは「行政活動は、法律の根拠に基づき、法律に従って行わなければならない」という基本原則のことを、「法律による行政の原理」と言います。

 

国民主権の我が国では、政治は国民の意思に基づいて行われなければならず、行政活動も国民の代表者たる国会で定めた法律に基づかなければならないのです。

 

法律による行政の原理は以下の3つの原則が派生しています。

※この辺は細かいので読み飛ばしで大丈夫です。興味のある方は読んでみてください。

 

  • 法律の法規創造力

「法律によってのみ人の権利義務を左右することができる」という原則です。

 

  • 法律の優位の原則

「すべての行政活動は、法律に違反して行うことはできず、また、行政措置によって法律の内容を変えたり、骨抜きにすることはできない」とする原則です。

法律の趣旨と違うことを行政が勝手にやって、法律を形骸化させてはなりません。

 

  • 法律の留保の原則

「一定の行政活動は、法律の根拠に基づいて行わなければならない」とする原則です。行政活動には国会できちんと立法された法律の根拠が必要です。

 

岸田内閣の主張する国葬の根拠法→内閣府設置法

ここまで紹介してきたように、内閣(行政)が行政措置を行うには、法律の根拠に基づかなければならないということになります。岸田内閣は今回の国葬の根拠法として、以下の法律を挙げています。

内閣府設置法 第四条

1項 内閣府は、前条第一項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第二項第二号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。

3項33号 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。

 

内閣府の所掌事務について書かれていますが、これだけですと「国の儀式」に国葬が含まれると解釈しても、「内閣府が所管する」ということしか書いておらず、どういう場合に国葬をやって良いのかなど、国葬そのものの基準や根拠がありません。

 

根拠法がないとなると、国会でちゃんと審議と立法が必要になってきます。

ですが、今回内閣は国会を開かずに閣議決定だけで開催を決めてしまいました。

つまり、行政が立法行為をすっ飛ばして行政措置を行ってしまったということです。

 

閣議決定とは何か→内閣が職権を行使するための会議

そもそも閣議決定とはいったい何でしょうか。

内閣法第四条

1項 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。

2項 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。

内閣がその職権を行う、つまり行政権を行使するには、閣議によるものとされています。要するに、内閣が職権を行使するための会議です。

 

今回は内閣だけで国会を関与させずに決めてしまったわけですから、前述の「法律による行政の原理」が破綻することになります。

 

内閣(つまり行政)の一存で法律に根拠がなくとも、国会の審議を経ずにバンバン国のことを決定してしまえるなら、三権分立や国会の存在意義がなくなってしまうことにもなりかねません。

 

その他憲法と絡んでくるポイント

税金(財政民主主義・租税法律主義・予備費

憲法では財政についても規定されています。なんといってもその原資は国民の税金なわけですから、その徴収や使途もきちんと正しく成されなければなりません。

国葬で税金を投入するというからには、ここも避けては通れない道です。

財政民主主義

憲法 第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

憲法は、財政について国会のコントロールを強く認めています。これが財政処理の基本原則です。

租税法律主義

憲法 第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税は国民に対して直接負担を求めるものですから、新たに賦課・徴収するときはちゃんと、国民の代表たる国権の最高機関たる国会で立法しましょう、ということです。

たとえば消費税を上げたりするときも、ちゃんと国会で立法が行われます。

 

国葬が租税にあたるのかは断言できませんが、税金が使われるので無関係とも言えないかと思います。

予備費

憲法 第八十七条

1項 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

2項 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

 

予備費は予見し難い予算の不足に充てられます。例えば、急に災害が起きた場合など、事前審議をしていられない緊急対応がいる場合などの支出です。

予備費の支出は、事後に国会の承諾を得なければなりません。逆を言えば事後に国会の承諾を得ればOKです。

 

国葬にここで定められているような緊急性はないかと思います。やはり国会審議をするべきと言えるでしょう。

自由権(思想・良心の自由)

第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

思想は人それぞれ。この国には様々な考えを持った人が住み、それぞれ様々な政治家や政党を支持しています。

 

岸田総理は安倍元総理の実績を高く評価して実施を決定したと言っていますが、いまの内閣が過去の内閣(それも同じ政党)の内閣を評価する、というのは無理があるかと思います。評価は国民や別の国家機関に委ねるべきでしょう。

 

だからこそ、国民の代表かつ唯一の立法機関たる国会で、その基準、実施根拠、安倍内閣の評価をきちんと審議したうえで、本当に立法が必要か?実施が必要か?というのを議論すべきというわけです。

 

前例はあるの?そのときの根拠法は?

さて、ではこれまでに国葬の前例はあるのでしょうか。そして、ある場合に根拠法となったものは何か?順を追って見ていきましょう。

戦前の国葬

国葬令は戦前の大日本帝国憲法下に定められていた勅令です。この国葬令を根拠に、西園寺公望山本五十六などの国葬が行われています。

 

戦前の国葬令は日本国憲法に不適合として、廃止されました。※現在の日本国憲法は戦前の大日本帝国憲法を改正する形で制定されています。

戦後の2ケース

吉田茂国葬実施)

吉田茂が亡くなったときには、すでに戦前の国葬令は廃止されておりましたが、実施されました。サンフランシスコ講和条約を締結し、日本の独立を回復したときの首相です。

 

結局閣議決定により実施されましたが、「法律的にも制度上にも国葬についての規定がないので、国葬儀には踏み切るまでには、あらゆる角度からその是非が検討」されたそうです。

佐藤栄作国葬実施されず)

沖縄の日本への復帰を実現したときの首相です。ノーベル平和賞も受賞しています。

亡くなったときに国葬の実施が検討されましたが、当時の内閣法制局の長官の、法的根拠が明確でないという見解等で見送られました。

 

結局国会を開かないと始まらない!臨時国会要求は?

さて、ここまで色々と書いてきましたが、国の重要なことは国会を開いてちゃんと審議し、立法を行ったり、税金の使途として合意を得るべき、という基本的なところに立ち返るのが正しいプロセスかと思います。

 

実際、野党議員からは臨時国会を開催して審議すべき、という要求が行われています。

 

臨時国会の開催要件についても、憲法で定められています。

憲法 第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

これに基づいて臨時国会の召集が野党から要求されていますが、内閣は国会を召集していません。

閉会中審査で岸田総理自身が丁寧に説明する、と言っていたが、結局ちゃんとした説明はできず紛糾しています。

 

報道などでも臨時国会要求に与党は「応じない構え」などと出てきますが、「応じない構え」というスタンスは憲法上存在しません。「はい」以外の答えはない、ということです。

 

臨時国会の召集期限は書いていませんが、必要があると判断して「臨時」に要求するのですから、可能な限り直ちに実施する必要があるでしょう。

 

期限が書いてない以上本当にいつまでも遅らせて良いのならば、次の通常国会で議論すれば良いことになり、臨時国会の存在意義がなくなってしまいます。

 

今回は国葬も議論したいということで臨時国会要求が出ているのですから、この要求を無視して進める以上、違憲の状態と言って差し支えないのではないでしょうか。

 

最後に

安倍元総理国葬はこのように、憲法三権分立、国会や行政のあり方など、非常に国の統治の根幹にかかわるセッセンスが詰まった事例です。

 

このまま開催されようとも、どのようなプロセスで実施され、どんな問題が含まれていたのか、それを知っておくのはこの国に生きる国民として大切なことかと思います。