あと2点の壁を超える行政書士試験勉強ノート

2021年の行政書士試験をあと2点で不合格になった筆者が、今年こそ合格を目指していく勉強ノート

【行政法】行政事件訴訟法の訴訟類型と原告適格をまとめることで、わかりやすく(抗告訴訟編)

はじめに

行政事件訴訟法、と一口に言っても、「抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟、主観訴訟、客観訴訟、取消訴訟、無効等確認訴訟、…」と、

とにかく概念や切り口が大量にあり、何のことかが混乱してきがちです。

 

この記事では、「そもそもどんな訴訟(訴訟類型)で、どんなときに、誰が訴えることができる(原告適格)?」というところにフォーカスして整理していきたいと思います。

そこを嚙み砕くことでわかりやすくしていきましょう。

(わかりやすく、と言ってもそもそもの量が膨大ですが…)

 

まずは一番量が膨大な抗告訴訟にフォーカスして整理していきます。

 

抗告訴訟

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

抗告訴訟は文字通り公権力に直接不服を訴える訴訟です。

 

「法律関係の確認」が中心の当事者訴訟、自己の法律上の利益にかかわらないで提起する民衆訴訟(直接自己の利益が侵害されているというより、公権力の法規に適合しない行為の是正を求めるもの)よりも、直接的に公権力から不利益を受ける形のときに訴えることができます。

 

抗告訴訟は主観訴訟にあたります。主観訴訟は個人の権利利益の保護を目的とする訴訟です。※裁判所法で「法律上の争訟」と表記されているものです。

 

客観訴訟は、個人の権利利益とは直接関係がなく、法の正しい運用の確保を目的としています。民衆訴訟や機関訴訟が該当します。

 

このあたりの整理については別記事で取り上げる予定です。

引き続き、抗告訴訟の中の分類を見ていきましょう。

処分の取消の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

簡単に言えば、行政庁の処分や権力行使が市民に不利益を与えているときに、それらの取消しを求める訴訟です。

 

誰ができる?(原告適格

原告適格)第9条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者、簡単に言えば、処分が取消になれば法律的に得のある人です。ポイントは、直接自分が処分を受けていなくても、取り消されることで法律上の利益があれば、提起できるということです。

 

裁決の取消の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条3項 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

簡単に言えば、審査請求などの不服申立を行ったところ、満足のいかない裁決などが成されたときに、その取消しを求める訴えです。

 

誰ができる?(原告適格

原告適格)第9条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者、つまり、裁決が取消になれば法律上の利益のある人です。ポイントは、直接自分が裁決を受けていなくても、取り消されることで法律上の利益があれば、提起できるということです。

 

無効等確認の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条4項 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

重大かつ明白な瑕疵のある行政行為は最初から無効です。

そのような行政行為を受けても放っておけば無効なのですが、行政側が気付かずに処分を行ってくる可能性があります。

例えば、無効な課税処分を受けて、放っていたら滞納処分を受けた場合などです。

このような事態を避けるために、その処分が無効であることを確認するために訴える訴訟です。

 

誰ができる?(原告適格

第36条 無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

処分や裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者、処分が無効であることを確認するにつき法律上の利益を有する者です。直接自分が処分や採決を受けていなくても法これらに該当すれば提起できます。

 

また、現在の法律関係に関する訴えによって解決できない場合に限って提起できます。つまり、当事者訴訟、民衆訴訟など、他の類型の裁判で解決できる場合は提起できません。

 

不作為の違法確認の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条5項 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。

簡単に言えば、申請を行っても何も行政庁がアクションをせず、ほったらかしにされている状態について、違法であることを確認する訴訟です。

誰ができる?(原告適格

第37条 不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる。

当然、何も申請をしていない人が、「何もしてもらえない」と訴えることはできないので、処分又は裁決についての申請をした者に限られます。

 

義務付けの訴え(非申請型)

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条6項 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

1号 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。

行政庁に処分又は裁決をすることを義務付ける訴えです。本来なら行政庁が規制権限を行使すべき状態で行使されていない状態などで使われます。

どんなときに提起できる?

第37条の2

1項 第3条第6項第1号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。

処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、その損害を避ける適当な方法がこの訴えを提起する以外にないときに提起できます。

誰ができる?(原告適格

第37条の2

3項 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

提起できるのは法律上の利益を有する者です。自分が申請をしていなくても法律上の利益があれば訴えを提起することができます(だから"非申請型"なのですね)。

 

義務付けの訴え(申請型)

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条6項 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

2号 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

行政庁に対して、一定の処分や裁決を求めて申請や審査請求をしたところ、行政庁がその処分や裁決をしてくれないときに提起する訴訟です。

 

例えば、申請をしても行政庁が何もせず、不作為の違法確認を提起して勝訴したとします。

 

この場合でも、不作為が違法であることは確認できますが、行政庁に対して「何かちゃんと処分せよ」とアクションすることまで義務付けられるわけではありません。

義務付けの訴えは、そこまでをリーチに入れて、行政庁に対して処分をすることを命ずる訴訟です。

 

どんなときに提起できる?

第37条の3 

1項 第3条第6項第2号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。

1号 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
2号 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。

1号型は「不作為型」、2号は「拒否処分型」と呼ばれます。

申請型義務付け訴訟は、この区分に応じて、義務付けの訴えを併合して提起しなければなりません。

 

併合請求の要件:不作為型(1号型)
第37条の3

3項 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。

1号 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え

不作為型は、「その処分または採決に係る不作為の違法確認の訴え」を併合して提起しなければいけません。不作為の違法確認の訴えと同様、出訴期間の制限はありません。

義務付け判決まで不要であれば、不作為の違法確認の訴えを単独で提起することは可能です。

併合請求の要件:拒否処分型(2号型)
第37条の3

3項 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。

2号 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え

 

拒否処分型は、「その処分または採決に係る取消訴訟または無効等確認の訴え」を併合して提起しなければいけません。

この場合、申請拒否処分等の取消訴訟と提起する場合は、取消訴訟の出訴期間に準じます。無効等確認の訴えと提起する場合は、出訴期間の制限はありません。

こちらも義務付け判決まで不要であれば、取消の訴えや無効等確認の訴えを単独で提起することは可能です。

 

誰ができる?(原告適格

第37条の3 

2項 前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。

申請か審査請求をした者に限り提起することができます。自分が申請や審査請求をしていないと提起できません。

 

差止めの訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条7項

この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

将来において行われる行政処分や採決をあらかじめ差止めようとする訴訟です。

※ちなみに安倍元総理の国葬を止めようと提起されたのはこの訴訟です。論点は色々ありますがここでは割愛します。

 

どんなときに提起できる?

第37条の4 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができます。ただし、他に適当な方法がある場合は提起できません。

誰ができる?(原告適格

第37条の4

3項 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者なら提起できます。自分が申請や審査請求などを行なっている必要はありません。

なお、差止めの訴えについては、出訴期間の制限はありません。(抗告訴訟の規定は取消訴訟の規定が中心にあり、それらが他類型の訴訟にも準用されるのがベースとなっております。出訴期間に関しても基本的にそうなっておりますが、差止め訴訟には準用されていません)。

最後に

ここまで抗告訴訟を中心に、「そもそもどんな訴訟(訴訟類型)で、どんなときに、誰が訴えることができる(原告適格)?」というところにフォーカスして整理してきました。

他にも執行停止や仮の〇〇(義務付け・差止め)、判決の効力、事情判決など、重要な論点はありますが、行政事件訴訟法はボリュームが膨大で一回で全部覚えようとすると混乱しがちです。

 

とりあえずはこの基本的な骨組みをおさることが重要かと思います。