あと2点の壁を超える行政書士試験勉強ノート

2021年の行政書士試験をあと2点で不合格になった筆者が、今年こそ合格を目指していく勉強ノート

【合格しました!!】令和4年度(2022年)行政書士試験の結果と振り返り

合格しました!!!

更新が遅れましたが、ついに行政書士試験に合格しました!!!

合格証

合格者受験番号


思えば昨年2点足らずで落とされてから苦節の1年間…。長い道のりでしたが、ついに悲願達成です!!!

 

久しぶりのブログ投稿です。勉強ノートということで始めたこのブログですが、試験を目前に余裕がなくなり、ずっと手付かずになっておりました。

試験後もなんだかんだと手をつけられずほったらかしに…

 

結果がどうあれ更新はしておこうと思ったのですが、良い結果に終わって本当によかったです。

ちなみに得点はこんな感じです。

 

今年の方針や振り返りを記していきますので、似たような境遇の方の参考になればと思います。

2点足らずの不合格からのスタート!今年は択一のみで合格を狙う!

昨年2点足りずに落ちたこともあり、今年は択一だけで合格を決めに行く方針でした。

予備校の模範解答などを見ていたら、大体文意は掴めていたし択一で166点。

残り14点ぐらいは記述で取れているだろうし受かったんじゃないかな、と日々を過ごしていました。

 

しかし合格発表当日、いくら見ても自分の番号がない…!?正直ショックよりも何が起こったのかが分からない状況でした。

合格発表を目の当たりにして状況が分からない筆者の様子

何が起きている…!?

翌日届いた得点表を見て、なんと2点足りず!!

この結果には愕然としました。

驚愕する男性

へ!?

周囲の受験生も予備校の採点サービスで40〜50点取れていた方達が、一桁だの10点台前半(!?)といったことが頻発し、鬼採点だと話題になった年だったのです。

 

プロが採点して、そんなに点数にズレが出るというのは普通考えにくいですよね…。

ましてや法律の試験でたかだか40文字程度の記述、客観的な答えが当然導き出せるはずですから。

そんなに差異が出たら問題自体がおかしい、ということになります。

 

結局その年は、これまででは見られない超減点が大量に見受けられ、「条文を一言一句超厳密に再現しなければ大幅減点だったのではないか?」というのが予備校やネットで囁かれました。

そうでもなければ到底説明のつかないレベルだったのです。

それまでは文意が取れていればそれなりにもらえる試験だったので、私もそれを当て込んでいました。

 

条文というのは完全に覚える必要があるものではなく、都度使うときに六法を引けば済む話です。

 

法学部でも問われるのは法的な思考法であり、条文はツールであって、その場で参照して答えが導き出せれば良いものでした。

なので、六法の持ち込みはOKでした。

 

答案は書き直せないようにボールペンで書くことになっていたり、カンニングがバレたら一発で退学(本当に退学者が出ていました。嘘でもなんでもなく本気で一発で退場させられるのは寒気がしました)と、かなり厳格な試験にもかかわらず、六法の持ち込みはOKだったのです。

 

だから、この年の採点基準として提唱された“超厳密な条文再現の要求”というのは、はっきり言えばほとんどイチャモンの領域です。

 

そして、この基準自体も、毎年採点基準が公表されないため、外側からは誰も分からないのです。

 

このブラックボックスの記述が合格者数の調整に使われてる、ということはしばしば耳にしましたが、この年はまさに知られざる“神の見えざる手”の存在に一騒ぎあったのです。

※昨年比受験者数6,000人増、というこれまでに見られない受験者数増も令和3年度の大暴れの一因ではないかと思われます。

https://gyosei-shiken.or.jp/pdf/trans.pdf

 

はっきり言って些細なイチャモンなどつけようと思えばいくらでもつけられます。相手のご都合・お気持ち次第となればいくら対策してもそれを防ぐ手立てはありません。

ゲート・オブ・バビロン(※)ばりにぶん投げ放題です。

www.youtube.com

Fateシリーズの理不尽なまでに強いキャラクター、英雄王ギルガメシュの攻撃の一つ。動画冒頭〜40秒程

 

発動するか否かさえも全ては相手次第です。ここまで理不尽かつ不条理なクソゲーがあるでしょうか。

スーファミ時代はゲーム産業がそこまで成熟されておらず、今となっては笑うしかない殺生なクソゲーが大量にありましたが、これほどのレベルは見たことがありません。

 

この経験で私は一つの結論に達します。

 

行政書士試験は記述をアテにしてはいけない…!

考え込む男性の写真

 

ということで、今年は択一だけで合格を狙いに行くという方針を採りました。

 

択一だけで取れていれば文句なしに絶対に合格になりますし、発表まで不安に駆られることもないと思ったからです。

 

択一だけで合格できなくても、択一で合格が狙えるレベルになれば、ある程度記述もついてくるだろうとも考えました。

 

記述の対策は予備校などでも巷では色々と言われますが、結局どこで何点になるなど採点基準は試験側で明らかにされず、点数だけがボンと返ってきます。

 

ある程度の傾向はあるかもしれませんが、どこまで研究しても外からは推測することしかできません。

 

なので、「はっきりこうすれば取れる」という対策や、確実に得点できる保証がないと考えました。

 

それなりの対策はしますが、あまり計算に入れないことにしました。

 

再受験にあたってやったこと

昨年度の問題・苦手分野の分析

昨年度は某大手予備校に入っていましたが、もう教材は持っているし一から同じ講義を聴き直さなくてもいいかと思ったので、今年は独学を採りました。

 

テキストや過去問は昨年のものを使い、自分で計画を立てて勉強していく形です。

 

法改正は民法の成年年齢の変更ぐらいだと思ったので、これは自分で勉強しました。

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

一通り全体の勉強は終わっているので、まず前年度の苦手分野を間違えた問題から分析しました。

これで大体どこが弱いかが見えてくるので、苦手分野・理解の弱い分野から手をつけていきました。

行政法民法の苦手分野を重点強化

まず強化の必要性を感じたのは行政法です。

行政法は一番配点が大きく、一番勉強すれば得点が伸ばせる科目でもあります。

他の科目に比べて年による難易度の変動も少なく、ここが得点源にできないとまず合格できません。

 

やはり行政書士試験はその名に違わず、行政法の出題がかなり大きな割合を占めます。行政法を制する者が試験を制すると言っても過言ではないでしょう。

 

左を制する者が世界を制す、リバウンドを制する者がゲームを制する。

 

すみません、余計ですね笑(SLUM DUNKの劇場版、興味あるけどまだ行ってません)。

 

昨年一通り終わっているのでなんとなくの理解はできているのですが、12/19問というやや物足りない結果でした。15問以上は取らないと合格は厳しい、というのが体感です。

全般的にもっと詰める必要を痛感しました。

 

行政法を得点源にするには、各法律(行政手続法・行政不服審査法行政事件訴訟法)を跨って似た概念や用語が多いため、個別に繋がりや概念がちゃんと理解・整理できていないと難しいです。

 

「一応知っている」ぐらいの表面的な理解だと、試験はまさにそこを突いてきます。

各法律の似たような用語や概念を混ぜ合わせ、迷わせたり失点を誘ってくるのです。

 

これで「一通りは知っているのに、際どいところで失点する」ということを繰り返していました。

今年はその点を意識して、根本から理解を突き詰めていくことを意識しました。

 

あとは「行政法の中でも行政手続法が弱い」・「行政事件訴訟法の訴訟類型の整理などが固まりきってない」・「民法は債権総論が弱い」などの弱点が分かりました。

 

なので、そういった弱いところからまず手をつけていきました。

ブログをこの辺をテーマにして書いたのも、対策の一貫です。

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

 

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憲法

憲法はほぼ満点だったので、後回しにしました。

 

安倍元総理の国葬の件は世の中でも注目されましたし、普段手付かずの憲法の勉強し直しも兼ねてブログにしました。

結果的に行政法とも重なるところが多く、かなり良い復習になりました。

 

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

あとは直前に違憲判例を見直しました(憲法違憲判例が少ないのでそれを重点的に覚えて、あとは合憲と考えるのが良いです)。

商法

商法に関しては、本当はもっとやりたかったのですが、全部網羅する時間がなかったので、いつも出題されている設立と株式をおさえる方向にしました。

 

商法に懸ける労力というのは例年多くの受験生が悩まされるところかと思います。

 

範囲が広くて用語や概念が入り組んでいるため、確実に得点源にしようとするとかなり勉強が要りますし、他の分野の勉強の時間もかなり削ってしまう可能性があります。

 

かといって「捨てる」にしても、割とバカにならない配点となっています。

そういったところで「商法にどれぐらい時間を懸けるのか」は試験におけるキーポイントとなるかと思います。

一般知識

一般知識は、私は昔から社会科目と時事ネタが好きなので、1問しか間違えていませんでした。対策という対策よりも、日常的にニュースなどに目を通しました。

 

出題されそうなネタの傾向を拾って、普段から時事ネタにアンテナを張って置きました。

 

直前機には模試をネタ取りの感覚で受けに行きました。

別に正解できなくても、その年注視されているテーマの傾向を掴むことができます。

 

模試で出題された分野の解説を読み、テキストなどを見直しました。

私が受けた模試の一般知識はやたら難しく、足切りレベルの点数を初めて取ってびっくりしました。

 

本番でこんな難しいのが出たら終わりだと思い、割と懸命に復習しました。

結果的に、本番ではちゃんと40点取れました。

 

模試は簡単すぎると予備校が大したことがないと思われたり、「あそこの模試はこんなに簡単だったのに本番は段違いで難しい!騙された!」となるのを避けるためなのか、難しめに作ってあるのかもしれません。

 

模試は点数が悪くても必要以上に不安になることはないかと思います。

得点を取るよりも、直前期の勉強しどころチェックぐらいで活用しました。

 

感想と振り返り:法令択一

散々先述したとおり択一のみで合格を目指しましたが…結果的に170点で択一だけでの合格には及びませんでした…!

択一だけで決めることができませんでしたが、択一を固めて行けば記述もある程度は取れるだろう、という手はずどおりには行って良かったです。

 

今年は科目ごとの難易度が結構バラつきがあったかと思います。憲法・商法などが難しく、民法行政法などは例年どおりかと思いました。

 

憲法会社法の分からなかった問題は、多分かなり力を入れて勉強していても分からなかったと思うので、結果的に時間を他の分野に注いで良かったと思います。

 

今年の勝因は行政法がきちんと得点源にできたことです。例年もっと取りたいと強く願っていた行政法ですが、今回は16問ゲットできっちりと得点源にすることができました。

感想と振り返り:記述

先述した通り、合格にあたってあまり計算に入れなかった記述です。

とはいえ結構書けたので、あまり期待せずとも半分以上は取れただろうなと思ってました。

 

予想より低い点数でしたが、例によって何がどうなってこの点数なのかは分かりません。

受験後気力が尽きたので予備校の採点サービスは出しませんでしたが、今となってはどのぐらいギャップが出るか、出しておけば良かったかもと思います。

 

【一問目】

行訴法の訴訟類型を選択させるという典型的なパターンです。

行訴法は似たような言葉が多くて混乱しがちで、きちんと理解と場合分けができていないと書けない問題です。

 

すぐにはどの訴訟になるのか分からなかったので、上から順番に取消(採決・処分)・無効・不作為・義務付け・差止め、と全類型を書き出して要件を検討していきました。

 

後で考えれば分かっていたのですが、残り時間の焦りもあり、問題文に釣られて被告を「B市長」にしてしまいましたが(正解はB市)、訴訟類型は正しく選択できましたし、「重大な損害を生ずるおそれ」というワードも拾えました。

 

【二問目】

無権代理人と相続の問題です。

パターンごとに追認拒絶が認められるor認められないに分かれるので、それぞれの判例の理解などが重要になって来ます。

 

これは答えとしては本人が無権代理人を相続し、追認拒絶が認められるパターンです。その際に信義則という言葉がキーワードになり、これに反しないため認められることになります。

これは信義則というワードと、認められるという結果が両方書けました。

 

【三問目】

土地の不法占有者に対する、所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使の問題です。

「妨害排除請求権」というワードは書けましたが、所有権ではなく、問題文面どおり「賃借権に基づく」と書いてしまいました。

しかし、「塀の撤去を求めることができる」という結論は書けました。

 

2問目はほぼ解答例と同じように書けており、その他2問もポイント(予備校の模範解答基準)1つは落としたけどほぼ解答どおりだったので、記述に関しては30点は超えるだろうと思っていました。

 

やはり点数に不満というより、結果にかかわらずこのプロセスの不透明さは改善されるべき問題かと思います。とりわけ法律の試験なのですから、客観的な透明性は担保されるべきででしょう。

 

感想と振り返り:一般知識

案の定、出るだろうと思っていたロシアや核関連などはきちんと押さえられました。

 

核や環境問題は人類の存続とも切っても切り離せない分野ですし、時勢上、重要性や注目が高まる一方なので、今後も頻出の分野かと思います。

 

あとは、デジタル関連も頻出ですので、この辺りのキーワードや関連法は押さえておくと良いです。

 

DX、XR、メタバース、AI、ESG、SDGs、この辺のキーワードはおそらく今後も要チェックです。

 

行政書士業務とは直接関係なさそうですが、世の中やテクノロジーにキャッチアップしておくのは有用かと思います。

 

終わりに

ということで、色々あった末、今年は合格!!!めでたい結果に終わることができました。

悲願達成!



試験は終わりですが、引き続き日々頑張って参ります。

 

目標は達成しましたが、このブログが微力ながらも、自分のようなもう少しのところで不合格になってしまった受験生の役に立てれば幸いです。

 

読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

【憲法・時事】安部元総理国葬と憲法・法律・行政上の問題点!国会・内閣・三権分立などを基本から

はじめに

安倍晋三元総理の死去に伴い岸田内閣は国葬の実施を閣議決定しました。日にちは9月27日に予定されているようです。

 

これが紛糾しており、連日反対デモや署名活動が起きたり、色々な意見が交錯する状況となっています。

 

確かに憲法や行政、国の統治のあり方に及ぶ問題点・論点の多々ある事例で、憲法三権分立、国家統治や行政の根本原理を改めて学ぶ機会を与えているトピックとなっています。

 

この記事では、その辺りを根本から立ち返って整理していきたいと思います。

 

問題になっている点

「揉めてるのはわかるけど、そもそもこれって一体何が問題になってるの?」という方も結構いるのではないでしょうか。

さまざまな記事を見ていると、主にこんなところではないでしょうか。

 

  • 国会が開かれず、審議・決議されていない

  • 根拠法がないまま閣議決定のみで決定

  • 公的行事として税金が投入される

  • 特定の政治家の評価の押し付け

このあたりの問題が憲法(ひいては国の運営あり方)と密接に絡んできますので、順に見ていきましょう。

 

憲法の位置付け。憲法は国の最高法規

そもそも憲法とは一体何か?これが重要なポイントですので、先に触れておきます。

憲法 第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

 

要するにこの国における最も力を持つルールです。これの下位ルールとして国会で定められる法律、法律に基づいて行政機関(例えば内閣や〇〇省)が発する命令、その他の下位ルールはこの最高法規たる憲法に反すると無効です。

 

憲法は国家権力が力を持ちすぎると、国民の権利利益を侵害し出すおそれがあるので、国家権力に課されるルールとして定められています。

 

ですので、国会や行政が憲法に反して国民の権利利益を侵害する法律や命令を制定することを禁じているのです。憲法に合致していることを合憲、反していることを違憲、といいます。

 

三権分立(権力の相互抑制)

三権分立は国家の権力が一か所に集中すると、国民の権利や自由を侵害し出すかもしれないので、立法・司法・行政の三権に権力機構を分散して互いに独立させ、それぞれに対して抑制させ合う仕組みです(じゃんけんみたいなものです)。
 
この制度設計も、憲法によって立法権は国会、行政権は内閣、司法権は裁判所と、三権に応じた役割を与えることで実現しています。※中高の公民で図などと一緒によく出てきたやつです。
 
衆議院のHPにも掲載されています。
 
首相官邸HPではアニメーションを駆使してわかりやすく伝えています。

 

 

国会の地位と役割

憲法とは一体何か?を簡単に見てみたところで、次に国会の地位と役割を見ていきましょう。今回は国会が開かれていないことが問題となっています。

国会の位置付けや役割も憲法に定められています。

国権の最高機関、国の唯一の立法機関

憲法 第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

 
一見、この条文だと国会が一番偉いように見えますが、この"最高機関"という文言は、国会が国政の中心的地位を占めることを強調する政治的美称と考えるのが多数説です。
国会は他の三権、内閣・裁判所よりも高い地位にあるということを明記したわけではない、という考えです。
※国会も内閣からは衆議院の解散権、裁判所からは違憲審査権により抑制を受けています。
 
とはいえ、立法という極めて重要な役割を担う機関であることには変わりありません。
 
"唯一の立法機関"とは、以下の2つの意味です。
  • 国会による立法以外は原則許さないこと(国会中心立法の原則)
  • 国会による立法は、原則として国会以外の参与を必要としないこと(国会単独立法の原則)
立法という重要な役割を憲法によって専権的に任された機関といえるでしょう。
最高裁判所の規則制定権や、地方自治特別法の住民投票など、国会以外で定める例外はあります。
 
第四十三条 
1項 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2項 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

この"全国民を代表"の意味についても、政治的代表、と捉えるのが通説です。

つまり、代表機関の行為が法的に国民の行為とみなされるという意味ではなく、国民は代表機関を通じて行動し、代表機関は国民意思を反映するものとするという政治的な位置付けです。

 

議会を構成する議員は選挙区の有権者の投票、後援団体の後押しなどで当選するのが一般的ですが、議会においてはそういった人々だけの代表でなく、全国民の代表として、自己の信念にのみ基づいて発言したり、考えを表明できるという意味合いもあります。

 

国会について色々と書いてきましたが、選挙を通して選ばれた国会議員が国民の代表として位置づけられ、ここで立法が行われる極めて重要な機関といって差し支えないでしょう。

 

内閣の地位と役割

では続いて内閣の役割を見てみましょう。今回、国会にかけないで内閣の閣議決定だけで決めてしまったことが問題視されています。内閣の位置づけと役割も憲法で規定されています。

憲法 第六十五条 行政権は、内閣に属する。

行政権とは、すべての国家作用から、立法作用と司法作用を除いた残りのものです(これを控除説といいます)。立法、司法、それ以外は全部行政。

そう考えると、行政権はかなり広範で膨大な国家作用に及ぶということが分かるかと思います。

 

憲法 第六十六条 
3項 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

憲法では内閣の国会に対する連帯責任が定められています。この責任は具体的な法的責任ではなく、政治的責任と考えられています。

 

法律による行政の原理

ということで、この国で行政権を担っているのは内閣です。

行政法の基本原理には、法律による行政の原理、というものがあります。

 

これは「行政活動は、法律の根拠に基づき、法律に従って行わなければならない」という基本原則のことを、「法律による行政の原理」と言います。

 

国民主権の我が国では、政治は国民の意思に基づいて行われなければならず、行政活動も国民の代表者たる国会で定めた法律に基づかなければならないのです。

 

法律による行政の原理は以下の3つの原則が派生しています。

※この辺は細かいので読み飛ばしで大丈夫です。興味のある方は読んでみてください。

 

  • 法律の法規創造力

「法律によってのみ人の権利義務を左右することができる」という原則です。

 

  • 法律の優位の原則

「すべての行政活動は、法律に違反して行うことはできず、また、行政措置によって法律の内容を変えたり、骨抜きにすることはできない」とする原則です。

法律の趣旨と違うことを行政が勝手にやって、法律を形骸化させてはなりません。

 

  • 法律の留保の原則

「一定の行政活動は、法律の根拠に基づいて行わなければならない」とする原則です。行政活動には国会できちんと立法された法律の根拠が必要です。

 

岸田内閣の主張する国葬の根拠法→内閣府設置法

ここまで紹介してきたように、内閣(行政)が行政措置を行うには、法律の根拠に基づかなければならないということになります。岸田内閣は今回の国葬の根拠法として、以下の法律を挙げています。

内閣府設置法 第四条

1項 内閣府は、前条第一項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第二項第二号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。

3項33号 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。

 

内閣府の所掌事務について書かれていますが、これだけですと「国の儀式」に国葬が含まれると解釈しても、「内閣府が所管する」ということしか書いておらず、どういう場合に国葬をやって良いのかなど、国葬そのものの基準や根拠がありません。

 

根拠法がないとなると、国会でちゃんと審議と立法が必要になってきます。

ですが、今回内閣は国会を開かずに閣議決定だけで開催を決めてしまいました。

つまり、行政が立法行為をすっ飛ばして行政措置を行ってしまったということです。

 

閣議決定とは何か→内閣が職権を行使するための会議

そもそも閣議決定とはいったい何でしょうか。

内閣法第四条

1項 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。

2項 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。

内閣がその職権を行う、つまり行政権を行使するには、閣議によるものとされています。要するに、内閣が職権を行使するための会議です。

 

今回は内閣だけで国会を関与させずに決めてしまったわけですから、前述の「法律による行政の原理」が破綻することになります。

 

内閣(つまり行政)の一存で法律に根拠がなくとも、国会の審議を経ずにバンバン国のことを決定してしまえるなら、三権分立や国会の存在意義がなくなってしまうことにもなりかねません。

 

その他憲法と絡んでくるポイント

税金(財政民主主義・租税法律主義・予備費

憲法では財政についても規定されています。なんといってもその原資は国民の税金なわけですから、その徴収や使途もきちんと正しく成されなければなりません。

国葬で税金を投入するというからには、ここも避けては通れない道です。

財政民主主義

憲法 第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

憲法は、財政について国会のコントロールを強く認めています。これが財政処理の基本原則です。

租税法律主義

憲法 第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税は国民に対して直接負担を求めるものですから、新たに賦課・徴収するときはちゃんと、国民の代表たる国権の最高機関たる国会で立法しましょう、ということです。

たとえば消費税を上げたりするときも、ちゃんと国会で立法が行われます。

 

国葬が租税にあたるのかは断言できませんが、税金が使われるので無関係とも言えないかと思います。

予備費

憲法 第八十七条

1項 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

2項 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

 

予備費は予見し難い予算の不足に充てられます。例えば、急に災害が起きた場合など、事前審議をしていられない緊急対応がいる場合などの支出です。

予備費の支出は、事後に国会の承諾を得なければなりません。逆を言えば事後に国会の承諾を得ればOKです。

 

国葬にここで定められているような緊急性はないかと思います。やはり国会審議をするべきと言えるでしょう。

自由権(思想・良心の自由)

第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

思想は人それぞれ。この国には様々な考えを持った人が住み、それぞれ様々な政治家や政党を支持しています。

 

岸田総理は安倍元総理の実績を高く評価して実施を決定したと言っていますが、いまの内閣が過去の内閣(それも同じ政党)の内閣を評価する、というのは無理があるかと思います。評価は国民や別の国家機関に委ねるべきでしょう。

 

だからこそ、国民の代表かつ唯一の立法機関たる国会で、その基準、実施根拠、安倍内閣の評価をきちんと審議したうえで、本当に立法が必要か?実施が必要か?というのを議論すべきというわけです。

 

前例はあるの?そのときの根拠法は?

さて、ではこれまでに国葬の前例はあるのでしょうか。そして、ある場合に根拠法となったものは何か?順を追って見ていきましょう。

戦前の国葬

国葬令は戦前の大日本帝国憲法下に定められていた勅令です。この国葬令を根拠に、西園寺公望山本五十六などの国葬が行われています。

 

戦前の国葬令は日本国憲法に不適合として、廃止されました。※現在の日本国憲法は戦前の大日本帝国憲法を改正する形で制定されています。

戦後の2ケース

吉田茂国葬実施)

吉田茂が亡くなったときには、すでに戦前の国葬令は廃止されておりましたが、実施されました。サンフランシスコ講和条約を締結し、日本の独立を回復したときの首相です。

 

結局閣議決定により実施されましたが、「法律的にも制度上にも国葬についての規定がないので、国葬儀には踏み切るまでには、あらゆる角度からその是非が検討」されたそうです。

佐藤栄作国葬実施されず)

沖縄の日本への復帰を実現したときの首相です。ノーベル平和賞も受賞しています。

亡くなったときに国葬の実施が検討されましたが、当時の内閣法制局の長官の、法的根拠が明確でないという見解等で見送られました。

 

結局国会を開かないと始まらない!臨時国会要求は?

さて、ここまで色々と書いてきましたが、国の重要なことは国会を開いてちゃんと審議し、立法を行ったり、税金の使途として合意を得るべき、という基本的なところに立ち返るのが正しいプロセスかと思います。

 

実際、野党議員からは臨時国会を開催して審議すべき、という要求が行われています。

 

臨時国会の開催要件についても、憲法で定められています。

憲法 第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

これに基づいて臨時国会の召集が野党から要求されていますが、内閣は国会を召集していません。

閉会中審査で岸田総理自身が丁寧に説明する、と言っていたが、結局ちゃんとした説明はできず紛糾しています。

 

報道などでも臨時国会要求に与党は「応じない構え」などと出てきますが、「応じない構え」というスタンスは憲法上存在しません。「はい」以外の答えはない、ということです。

 

臨時国会の召集期限は書いていませんが、必要があると判断して「臨時」に要求するのですから、可能な限り直ちに実施する必要があるでしょう。

 

期限が書いてない以上本当にいつまでも遅らせて良いのならば、次の通常国会で議論すれば良いことになり、臨時国会の存在意義がなくなってしまいます。

 

今回は国葬も議論したいということで臨時国会要求が出ているのですから、この要求を無視して進める以上、違憲の状態と言って差し支えないのではないでしょうか。

 

最後に

安倍元総理国葬はこのように、憲法三権分立、国会や行政のあり方など、非常に国の統治の根幹にかかわるセッセンスが詰まった事例です。

 

このまま開催されようとも、どのようなプロセスで実施され、どんな問題が含まれていたのか、それを知っておくのはこの国に生きる国民として大切なことかと思います。

 

 

【行政法】行政事件訴訟法の訴訟類型と原告適格をまとめることで、わかりやすく(抗告訴訟編)

はじめに

行政事件訴訟法、と一口に言っても、「抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟、主観訴訟、客観訴訟、取消訴訟、無効等確認訴訟、…」と、

とにかく概念や切り口が大量にあり、何のことかが混乱してきがちです。

 

この記事では、「そもそもどんな訴訟(訴訟類型)で、どんなときに、誰が訴えることができる(原告適格)?」というところにフォーカスして整理していきたいと思います。

そこを嚙み砕くことでわかりやすくしていきましょう。

(わかりやすく、と言ってもそもそもの量が膨大ですが…)

 

まずは一番量が膨大な抗告訴訟にフォーカスして整理していきます。

 

抗告訴訟

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

抗告訴訟は文字通り公権力に直接不服を訴える訴訟です。

 

「法律関係の確認」が中心の当事者訴訟、自己の法律上の利益にかかわらないで提起する民衆訴訟(直接自己の利益が侵害されているというより、公権力の法規に適合しない行為の是正を求めるもの)よりも、直接的に公権力から不利益を受ける形のときに訴えることができます。

 

抗告訴訟は主観訴訟にあたります。主観訴訟は個人の権利利益の保護を目的とする訴訟です。※裁判所法で「法律上の争訟」と表記されているものです。

 

客観訴訟は、個人の権利利益とは直接関係がなく、法の正しい運用の確保を目的としています。民衆訴訟や機関訴訟が該当します。

 

このあたりの整理については別記事で取り上げる予定です。

引き続き、抗告訴訟の中の分類を見ていきましょう。

処分の取消の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

簡単に言えば、行政庁の処分や権力行使が市民に不利益を与えているときに、それらの取消しを求める訴訟です。

 

誰ができる?(原告適格

原告適格)第9条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者、簡単に言えば、処分が取消になれば法律的に得のある人です。ポイントは、直接自分が処分を受けていなくても、取り消されることで法律上の利益があれば、提起できるということです。

 

裁決の取消の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条3項 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

簡単に言えば、審査請求などの不服申立を行ったところ、満足のいかない裁決などが成されたときに、その取消しを求める訴えです。

 

誰ができる?(原告適格

原告適格)第9条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者、つまり、裁決が取消になれば法律上の利益のある人です。ポイントは、直接自分が裁決を受けていなくても、取り消されることで法律上の利益があれば、提起できるということです。

 

無効等確認の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条4項 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

重大かつ明白な瑕疵のある行政行為は最初から無効です。

そのような行政行為を受けても放っておけば無効なのですが、行政側が気付かずに処分を行ってくる可能性があります。

例えば、無効な課税処分を受けて、放っていたら滞納処分を受けた場合などです。

このような事態を避けるために、その処分が無効であることを確認するために訴える訴訟です。

 

誰ができる?(原告適格

第36条 無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

処分や裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者、処分が無効であることを確認するにつき法律上の利益を有する者です。直接自分が処分や採決を受けていなくても法これらに該当すれば提起できます。

 

また、現在の法律関係に関する訴えによって解決できない場合に限って提起できます。つまり、当事者訴訟、民衆訴訟など、他の類型の裁判で解決できる場合は提起できません。

 

不作為の違法確認の訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条5項 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。

簡単に言えば、申請を行っても何も行政庁がアクションをせず、ほったらかしにされている状態について、違法であることを確認する訴訟です。

誰ができる?(原告適格

第37条 不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができる。

当然、何も申請をしていない人が、「何もしてもらえない」と訴えることはできないので、処分又は裁決についての申請をした者に限られます。

 

義務付けの訴え(非申請型)

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条6項 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

1号 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。

行政庁に処分又は裁決をすることを義務付ける訴えです。本来なら行政庁が規制権限を行使すべき状態で行使されていない状態などで使われます。

どんなときに提起できる?

第37条の2

1項 第3条第6項第1号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。

処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、その損害を避ける適当な方法がこの訴えを提起する以外にないときに提起できます。

誰ができる?(原告適格

第37条の2

3項 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

提起できるのは法律上の利益を有する者です。自分が申請をしていなくても法律上の利益があれば訴えを提起することができます(だから"非申請型"なのですね)。

 

義務付けの訴え(申請型)

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条6項 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

2号 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

行政庁に対して、一定の処分や裁決を求めて申請や審査請求をしたところ、行政庁がその処分や裁決をしてくれないときに提起する訴訟です。

 

例えば、申請をしても行政庁が何もせず、不作為の違法確認を提起して勝訴したとします。

 

この場合でも、不作為が違法であることは確認できますが、行政庁に対して「何かちゃんと処分せよ」とアクションすることまで義務付けられるわけではありません。

義務付けの訴えは、そこまでをリーチに入れて、行政庁に対して処分をすることを命ずる訴訟です。

 

どんなときに提起できる?

第37条の3 

1項 第3条第6項第2号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。

1号 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
2号 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。

1号型は「不作為型」、2号は「拒否処分型」と呼ばれます。

申請型義務付け訴訟は、この区分に応じて、義務付けの訴えを併合して提起しなければなりません。

 

併合請求の要件:不作為型(1号型)
第37条の3

3項 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。

1号 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え

不作為型は、「その処分または採決に係る不作為の違法確認の訴え」を併合して提起しなければいけません。不作為の違法確認の訴えと同様、出訴期間の制限はありません。

義務付け判決まで不要であれば、不作為の違法確認の訴えを単独で提起することは可能です。

併合請求の要件:拒否処分型(2号型)
第37条の3

3項 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。

2号 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え

 

拒否処分型は、「その処分または採決に係る取消訴訟または無効等確認の訴え」を併合して提起しなければいけません。

この場合、申請拒否処分等の取消訴訟と提起する場合は、取消訴訟の出訴期間に準じます。無効等確認の訴えと提起する場合は、出訴期間の制限はありません。

こちらも義務付け判決まで不要であれば、取消の訴えや無効等確認の訴えを単独で提起することは可能です。

 

誰ができる?(原告適格

第37条の3 

2項 前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。

申請か審査請求をした者に限り提起することができます。自分が申請や審査請求をしていないと提起できません。

 

差止めの訴え

どんな訴訟?(訴訟類型)

第3条7項

この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

将来において行われる行政処分や採決をあらかじめ差止めようとする訴訟です。

※ちなみに安倍元総理の国葬を止めようと提起されたのはこの訴訟です。論点は色々ありますがここでは割愛します。

 

どんなときに提起できる?

第37条の4 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができます。ただし、他に適当な方法がある場合は提起できません。

誰ができる?(原告適格

第37条の4

3項 差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

法律上の利益を有する者なら提起できます。自分が申請や審査請求などを行なっている必要はありません。

なお、差止めの訴えについては、出訴期間の制限はありません。(抗告訴訟の規定は取消訴訟の規定が中心にあり、それらが他類型の訴訟にも準用されるのがベースとなっております。出訴期間に関しても基本的にそうなっておりますが、差止め訴訟には準用されていません)。

最後に

ここまで抗告訴訟を中心に、「そもそもどんな訴訟(訴訟類型)で、どんなときに、誰が訴えることができる(原告適格)?」というところにフォーカスして整理してきました。

他にも執行停止や仮の〇〇(義務付け・差止め)、判決の効力、事情判決など、重要な論点はありますが、行政事件訴訟法はボリュームが膨大で一回で全部覚えようとすると混乱しがちです。

 

とりあえずはこの基本的な骨組みをおさることが重要かと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

【行政法(時事ネタ)】諏訪市の受動喫煙防止条例案の意見公募手続(パブコメ)について

諏訪で買った諏訪姫のフィギュア

諏訪で買った諏訪姫のフィギュア

はじめに

ぶらぶらとネットサーフィンをしていたら、諏訪市で行われた意見公募手続パブコメ)について、気になる記事が出ていました。

www.nikkan-gendai.com

自分も何度も行ったことがある場所で、行政書士試験の分野とも関わりがある分野だったので、気分転換も兼ねて書いてみます。

意見公募手続について

この場合、地方公共団体意見公募手続にあたります。こちらは行政手続法の適用対象外です。かといって行政が好き勝手に条例を定めて良いわけではありません。この辺りは過去記事でまとめました。

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

 

内容とパブコメ実施結果

内容としては、屋外の一定区域を全面禁煙とする重点区域を市長が制定できるようです。

その他には20歳未満の者や妊婦への受動喫煙防止についてなどが盛り込まれています。

すでに意見公募は終了して、実施結果が公表されています。

www.city.suwa.lg.jp

 

個人的には、全面禁止ではなく、ちゃんと喫煙場所を設けて、受動喫煙が行われないように棲み分けを行えばいいのではないかな、と思いました。

 

実際、結果を見てみると、賛成が案外少なく、喫煙者と非非喫煙者が共存できるように喫煙所の設置を望んだり、弾力的な運用を望む、といった声が多いです。

 

受動喫煙は防ぐべきですが、喫煙をしたい、という方も市民や観光客なわけで、とにかく一律に禁止するのではなく、多くの方が満足できる運用を目指すべきかと思いました。

 

とはいえどうも結論ありきでそれにそぐわない意見は聞く気なし、というスタンスが伝わってきて、議会でどう扱われるか分かりませんが、色んなところでこういうことが続くと制度自体がすでに形骸化しているではないかという気もしてきます。(ぶっちゃけ横浜市もこんなのばかりです)

諏訪情報と結び

諏訪は何度も行ったことがあって、湖と木々、自然豊かな良いところです。花火大会は圧巻ですし、諏訪大社を巡るのもとても楽しい思い出です。

諏訪大社はいくつかありますが、前宮が一番お気に入りです。地味ですけど一番太古感があるというか、長い歴史の営みや風情を感じさせてくれるところが好きです。

suwataisha.or.jp

 

ホテルはここが料理も美味しくて、お風呂(特に露天)が素晴らしかったです。

・RAKO華乃井ホテル(なぜか埋め込みできないので普通にURL貼ってます)

https://www.hananoi.co.jp/

 

すわっこランドのお風呂とミストハウスも素晴らしいものでした。

suwakko-land.com

しばらく行っていませんが、民主的なプロセスをふまえたよりよい街になってくれればいいなと思います。

 

【行政法】意見公募手続(パブコメ)について

はじめに

行政手続法では、命令等を定めるにあたって、一般の意見を求めなければなりません。

行政が好き勝手にどんどん命令を作っていいわけではなく、きちんと意思決定の内容や過程を国民に示して透明性を維持するための制度です。

別記事で書きましたが、2022年から行政書士試験の受験料が大幅に値上げされました。

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

 

この値上げにあたっても行われたのが、行政手続法の命令等を定める手続における「意見公募手続です。試験の頻出分野なので、きちんと復習しておきたいと思います。

 

意見公募手続について

行政手続法の総則において、命令等を定める手続は行政手続法の適用対象として1条で記載され、2条8号で命令等の内容を以下のように定義しています。

  1. 法律に基づく命令または規則(政令や省令など)
  2. 審査基準
  3. 処分基準
  4. 行政指導指針

これらを定めるときに、広く一般の意見を募集し、それらを十分考慮して決定するという流れが行政手続法38条以下に規定されています(第6章 意見公募手続。特に以下39条を見ると、パブコメ募集で行われていることが良くイメージできるかと思います。

 

意見公募手続

第三十九条 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。

 

意見募集するときは、原則30日以上の期間を設定しなければなりません(39条3項)。ただし、やむを得ない理由があるときは、30日以上の下回る期間を定めることができるが、その場合は命令等の案の公示の際にその理由を明らかにしなければいけません(40条1項)。

 

結果の公示にあたって、提出意見がなかった場合にあっては、なかった旨を公表する必要があります。

 

意見公募手続を実施したにもかかわらず命令等を定めないこととした場合にも、その旨と、命令等の題名、命令等の案の公示の日を速やかに公示しなければなりません。

 

意見がなくても、命令等を定めないことにしても、それはそれでその旨の公表が必要なのがポイントかと思います。

 

その他、「広く一般」には日本国民だけでなく、法人や外国人も含まれること、などが注意点です。

最後に

意見公募手続は、行政手続法が地方公共団体で適用除外になるケースとの絡みでもおさえておきたいところです。地方公共団体での意見公募手続は適用除外ですね。

※こちらについては過去記事で整理しました。

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

 

【民法】保証人の通知義務

はじめに

保証人に対して、債権者から債務の履行が請求された場合(貸したお金を払え、など)、保証人は主債務者に対して通知義務を負います。

これをきちんと行うか怠るかで、主債務者も保証人も主張できることが変わっていきますので、きっちりおさえておきましょう。

委託を受けた保証人がいる場合

保証人の事前通知義務

委託を受けた(つまり頼まれて保証人になった)保証人が、債権者から債務の履行を請求された場合、弁済前に主債務者に対して通知義務を負います。

「これから弁済を行います」ということをきちんと通知せよ、ということです。

保証人がこの通知を怠って弁済した場合、主債務者は債権者に対抗できたことを保証人に対して主張できます。

主債務者の事後通知義務

委託を受けた保証人がいる場合、主債務者が弁済した場合には、主債務者は弁済した旨を保証人に通知しなければなりません。「もう弁済しました」ということをきちんと通知せよ、ということです。

主債務者が弁済後に通知をせず、善意の保証人が重ねて弁済してしまったときは、保証人は自己の弁済を有効とみなすことができ、主債務者に対して求償することができます。

保証人の事後通知義務

委託を受けた保証人は、弁済後も主債務者に通知する義務があります。「もう弁済しました」ということをきちんと通知せよ、ということです。

保証人が弁済後の通知をせずに、善意の主債務者が重ねて弁済した場合には、主債務者は、自己の弁済を有効とみなすことができ、保証人からの求償を拒むことができます。

委託を受けていない保証人

委託を受けていない保証人には事前通知義務も事後通知義務もありません。委託を受けていない保証人は、元々求償権が制限されているので、通知をしてもしなくてもそこに変わりはないからです。

通知なしに主債務者が弁済しても、主債務者の弁済を有効とみなせるので、主債務者が損をすることはありません。

この辺の求償権については過去記事でまとめました。

 

gyouseisyosi-study.hatenablog.com

最後に

いわゆるほうれんそう(報・連・相)は仕事でも生活でも大切なことで、これさえきちんとやっておけば避けられたトラブル、というのはよくあることです。

法律のうえでも通知を怠ることで、主張できることができなくなってしまうなど、不利益が返ってくるケースがあります。

保証人の通知義務もパターンごとにきっちりおさえておきましょう。

【民法】保証人の求償権について。それぞれのケースについての整理

はじめに

民法では、主債務者(保証人がいるときは主債務者と呼ぶ)が借りたお金を払わないなど、債務を履行しない場合に、保証人に代わって債務を履行させることができます。

 

保証人が弁済したときは全額を主債務者に対して返還請求できますが、求償できる範囲はケースによって異なります。本稿ではそれを整理していきます。

主債務者の委託を受けた保証人

第459条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。

 

要するに、主債務者から頼まれて保証人になった人です。頼まれた人なので一番優遇されます。

 

現実に支出した額、つまり元本と利息の合計、弁済してから求償するまでに追加で生じた利息、弁済にかかった手数料なども請求することができます。

 

ただし、弁済に支出した財産額が、債務の額を超える場合は、債務の額を上限に求償できます。

例えば、100万円の債務を150万円の自動車で代物弁済しても、求償できるのは100万円までです。

 

また、委託を受けた保証人には事前求償権も認められます。事前求償権は、保証人が弁済前に求償を行える制度です。

 

主債務の弁済期が到来した場合や、保証人が債権者に弁済するよう判決を受けた場合などに行使できます。

主債務者の委託を受けていない保証人

主債務者に頼まれてもいないのに勝手に保証人になった人です。

 

一見、勝手に保証人になられたら困るのでは、とも思いますが、主債務者にとっても「頼んではいないが、保証をしてくれて助かる」と考えるケースと、「頼んでもいないのに、勝手にされても困る」と考えるケースがあります。

 

両方について見ていきましょう。

主催者の意思に反しない保証人

こちらは主債務者が「保証をしてくれて助かる」と考えるケースです。弁済時に、主債務者が利益を受けた限度、つまり支払わないで済んだ額で求償できます。

つまり元本と利息の合計のみです。求償するまでに加えて発生する利息や、弁済にかかった手数料は含まれません。

 

事前求償権はありません。

主債務者の意思に反する保証人

こちらは主債務者が「頼んでもいないのに勝手になられても困る」と考えるケースです。

保証人が「求償したとき」に、利益を受けている限度=支払わなくて済んでいる金額のみ請求できます。

もし求償するまでの間に、主債務者が反対債権を取得したり、免除を受けた場合は、求償することができません。

 

こちらも事前求償権はありません。

最後に

保証人の求償権は委託の有無、主債務者の意思に反するかどうか、などで分かれます。

 

簡単に言えば「頼まれて保証人になったか」、「勝手に保証人になったか」、「勝手になったけど主債務者はそれを良しと思っているか」、などで分かれます。

 

そこを突き詰めれば、どんなケースの保証人が一番優遇され、どこまで求償できるか・できないか、などを考えやすくなると思います。