【民法】連帯債務者間の求償権
はじめに
連帯債務者の誰かが弁済を行った場合、「その人だけがすべてを負担して、他の人は払わなくてよし」、となってしまうと不公平と言えます。そんなときに弁済を行った債務者は他の債務者に対して、各自の負担部分を請求することができます。これが求償権です。
基本的なルール
第442条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
連帯債務者の誰かが弁済を行った場合、最終的に誰がどのぐらい負担するかという割合(負担部分)について定めていれば、弁済を行った債務者は残りの債務者に対し、割合に応じて求償することができます。負担部分は特約ですので、当事者間で定めます。
負担部分について特約がない場合、それぞれ等しい割合で負担することになります。
例えば、連帯債務者ABCが甲に対して貸金債務300万円を負っていた場合に、Aが300万円を弁済した場合、BCの連帯債務も消滅します。このときAはBCに対して100万円ずつ請求することができます。
債務者の誰かが負担部分を超えない範囲で弁済した場合でも、負担部分の割合に従って求償できます。
先ほどのケースで、Aが90万円だけ弁済したときでも、AはBCに対して30万円ずつを請求することができます。
通知を怠った求償の制限
連帯債務者の誰かが弁済をしているにもかかわらず、そのことを他の債務者が知らないと、また弁済を行ってしまう可能性があります。そうなると問題が複雑になってしまいますので、弁済を行っても他の債務者に対して通知を行わない場合、求償ができなくなることがあります。これが求償の制限です。
事前通知を怠った場合
第443条 他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、その連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
例えば、ABCが甲に対して300万円の連帯債務を負っており、Aは甲に対して100万円の債権を持っています。
BがAとCの存在を知りながら、二人に対して弁済することを事前に通知せず弁済し、Aに100万円の求償を行った場合、Aは甲に対する100万円の債権を使って相殺すると主張することができます。
Bは甲に対して、Aが相殺できた100万円を請求することができます。
事後通知を怠った場合
第443条2 弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が、他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは、当該他の連帯債務者は、その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。
ABCが甲に対して300万円の連帯債務を負っています(負担部分は平等)。
Aが甲に弁済しました。AはBCの存在を知りながら、BCに対し、弁済をしたと事後の通知を行わなかったので、それを知らないBも甲に対して300万円を弁済しました。AはBに対し、負担部分100万円を求償し、BもAに対し100万円を求償しました。
この場合、Bは自らの弁済を有効なものであったとみなすことができます。事後の通知を怠ったAはBに100万円を求償できず、善意で弁済したBがAに対して100万円を請求することができます。
事前事後の通知をいずれも怠った場合
ABCが甲に対して300万円の連帯債務を負っています(各自の負担部分は平等。他の連帯債権者の存在も知っている)。
Aが甲に弁済し、連帯債務者BCに対して事後の通知をしなかったため、善意のBが甲に300万円を弁済しましたが、Bは事後の通知を行いませんでした。この場合、BはAに対して求償できません。
無資力者がいる場合
第444条 連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。
ABCが甲に対し300万円の連帯債務を負っています(負担部分は平等)債務者Aは無資力です。
その場合、Aが払えない分の100万円は、BCで負担部分に応じて分割して負担します。Aが払えない100万円を、BCで50万円ずつ負担し、一人150万円ずつ負担することになります。
連帯債務者の1人が債務を免除された・時効が完成した場合
連帯債務者の1人の債務が免除されたとき、時効が完成したときも、その効力は他の連帯債務者に影響を及ぼしません。債務者の誰かが弁済を行えば、免除や時効が完成した債務者に対しても求償することができます。
ABCが甲に対して300万円の連帯債務を負っているとします(負担部分は平等)。甲がAに対して債務を免除しました。免除のあとでも、Bが弁済を行えば、A、Cに対して100万円ずつ求償することができます。
同様の連帯債務がある状態で、Aの債務が時効消滅しました。時効消滅のあとでも、Bが弁済を行えば、A、Cに対して100万円ずつ求償することができます。
最後に
いわゆるほうれんそう(報・連・相)は仕事でも生活でも大切なことで、これさえきちんとやっておけば避けられたトラブル、というのはよくあることです。
法律のうえでも通知を怠ることで、求償ができなくなるなど不利益が返ってくるケースがあります。求償権もパターンごとにきっちりおさえておきましょう。
【民法】連帯債権の絶対効・相対効について
はじめに
連帯債権には、債権者・債務者のうち誰かの行為が、他の債権者に影響を与えるか・与えないかという、絶対効・相対効という重要な概念があります。
影響を与える場合が絶対効、影響を与えないのが相対効です。
本稿では絶対効と相対効のケースについて整理していきます。
※連帯債権と連帯債務については、別稿で記述しております。
gyouseisyosi-study.hatenablog.com
連帯債権の絶対効
連帯債権は原則として相対効です。
第435条の2 432条から前条までに規定する場合を除き、連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし、他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従う。
一人の債権者が行った行為は原則として他の債権者に対して影響を及ぼしません。例外として432条~434条に挙げられている以下の行為が絶対効です。逆にこちらの行為以外は相対効になりますので、まずこれをおさえましょう。
- 履行の請求(時効の完成猶予や更新を含む)
- 弁済(代物弁済や供託を含む)
- 更改
- 免除
- 相殺
履行の請求(時効の完成猶予や更新を含む)
連帯債権者の誰かが請求を行った場合、残りの債権者も請求したことになります。
連帯債権者AB、債務者甲がいるとき、Aが甲に対して請求を行った場合はBも請求したことになります。
Aの請求で時効の完成猶予や更新がされる場合、Bにも同様に影響します。
弁済(代物弁済や供託を含む)
債務者が連帯債権者の誰かに弁済を行った場合、弁済額の範囲で他の債務者の債権も消滅します。
連帯債権者ABに対し、債務者甲がA対して全額弁済を行った場合は、Bの債権は消滅します。
更改
更改は当事者が元の債務に代えて契約を変更したり、債務者・債権者が別人と交替したりすることをいいます。
例えば、連帯債権者ABCが、債務者甲に対して300万円の貸金債権を持つとします。Aと甲との間で、車一台で弁済するとの契約に更改しました。
その場合、甲はAに300万円を返さず車を引き渡せばよくなります。BCは甲に対して、Aの受け取れる分100万円を請求できなくなります。
甲がAに対して車を引き渡した場合、AはBCに100万円を分配する必要があります。甲がBCに対して200万円を返済した場合は、BCはAに対して100万円を渡す必要はありません。
免除
免除は債権者が債務者に対し、債務を免除する意思を表示することです。例えば金銭債権ならば、もう払わなくて良いよ、と債権者が債務者に意思表示してあげることで債権が消滅します。
連帯債権者ABCのうち、Aが甲に対して貸金債権300万円を全額免除したとします。
この場合、甲はAに弁済する必要はなくなります。そうすると、BCはAが受け取れるはずだった100万円については、甲に対して請求できなくなり、200万円までしか請求できなくなります。
相殺
相殺は、債務者が債権者に対し、弁済期にある同種の債権を有する場合に、その債権と債務を対等な範囲で消滅させる意思表示です。
例えば、AがBに対して100万円の貸金債権を持つときに、BもAに対して100万円の貸金債権を持つとします。その場合、お互いの100万円の貸金債権をもって、金銭のやり取りをすることなく、双方の債権・債務を消滅させることができます。
連帯債権者ABCが債務者甲に対して、300万円の連帯債権を持つとします。そのうちAが甲から車を300万円で購入し、甲に対して300万円の代金債務(甲にとっては代金債権)が生じました。Aがこの代金債務と、甲に対して持つ債権を相殺すると、BCの債権も消滅することになります。
最後に
連帯債権の基本は相対効です。絶対効を中心に覚えると、覚えることが少なくて覚えやすくなります。
【民法】連帯債務の絶対効・相対効について
はじめに
連帯債務には、債務者のうち誰かの行為が、他の債務者に影響を与えるか・与えないかという、絶対効・相対効という重要な概念があります。影響を与える場合が絶対効、影響を与えないのが相対効です。
例えば、複数人連帯の貸金債務があるときに、債務者の一人がお金を返済すれば、他の債務者はもう払わなくてよくなります。こういったケースが絶対効です。この場合、返済した債務者は、他の債務者に対して各自の負担分を請求することができます。債務者間の請求についてもケースに応じてルールがありますので、それを整理していきましょう。
連帯債務の絶対効
第441条 第438条、第439条第1項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
連帯債務は原則として相対効です。以下が絶対効です。絶対効を覚えた方が覚えることが少なくなりますので、こちらを覚えましょう。
- 弁済
- 更改
- 相殺
- 混同
弁済
債務者の誰かが弁済をしたとき、債務は消滅するので絶対効です。全部ではなく一部の弁済でも、絶対効になります(例:ABC90万円の連帯債務でAが30万円を弁済したとしても、BCに対して10万円ずつ請求することが可能です)。
更改
債務者の誰かが更改を行ったときです。貸金300万円の連帯債務を持つABCのAが、債権者甲と車の引き渡しに契約を更改したとします。この場合、残りのBCの債務は消滅します。Aが自動車を引き渡すと、債務を弁済したことになりますので、AはBCに対して100万円を請求できます。
相殺
債務者の誰かが債権者に対して相殺を行ったときです。貸金300万円の連帯債務者ABCのうちAが、債権者甲に車を料金後払いで売っていて、売掛金債権300万円を有していたとします。このときに、Aがこの売掛金債権で甲に対して相殺を行うと、BCの債務も消滅することになります。
このケースのときに、Aが相殺を行う前に、甲がBCに対して請求をした場合、BCはAの負担部分、100万円を限度に請求を拒むことができます。BCは200万円を限度に弁済すればよいことになります。
混同
債権者の一人と債務者の一人が同じになるときに、混同が生じます。例えば、連帯債務者ABCのうち、Aが債権者甲の親子というケースのときに、甲が死亡してAが甲を相続したとします。このとき、Aが甲の債権も相続します。これが混同です。
Aが負担する債務はこれで消滅し、BCの連帯債務も消滅します。結果としてAが全額弁済したのと同じ結果になるので、AはBCに対して100万円ずつ求償できます。
最後に
連帯債務も基本は相対効です。絶対効を覚えて、残りは相対効、という覚え方をするのがポイントになるでしょう。
【民法】多数当事者の債権・債務について。対外関係(債権者と債務者の関係)の整理
はじめに
本稿では、多数当事者の債権・債務について整理していきます。
抽象的なテーマで似たような言葉が入り組むので混乱しがちなテーマですが、順を追って整理していきましょう。まずは単純な債権者と債務者の関係について整理していきます。
数人の債権者や債務者がいるときのスタンダードなケース
本来、債権は数人の債権者や債務者がいる場合は、原則として分割債権・分割債務です。
分割債権・分割債務の原則
第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
債権者が複数いる場合は、等しい割合分の債権をそれぞれが有し、請求できることになります。そして、債務者が返済する債務も、それぞれの等しい割合のみです。
例えば、債務者・甲がABCの3人から300万円を借りた場合、ABCが請求できるのは、それぞれ100万円のみです。そして、甲が返済できるのはそれぞれに対しての債務100万円ずつのみです。
この原則に、例外的に適用されるのが連帯債権・連帯債務、不可分債権・不可分債務です。
連帯債権と不可分債権
まずは連帯債権の条文を見てみましょう。複数人債権者がいるときの例外的な規定です。
連帯債権
第432条 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
こちらのポイントは、性質上可分(例えば金銭など)であることと、法令の規定又は当事者の意思表示によることです。従前のとおり、本来、債権者が複数いる場合は、等しい割合分の債権をそれぞれが有し、請求できることになります。
しかし、ABC3人が共同して、甲に300万円を貸した場合、当事者間でABCそれぞれが満額300万円を甲に請求できると合意すれば、甲に対して300万円請求できることになります。300万円の一部(たとえば100万円)を請求することも可能です。これが連帯債権です。
一方、甲はABCの誰か一人に300万円を払えば良いことになります。
不可分債権
次に不可分債権の条文を見てみましょう。こちらは債権者が複数人いて、債権の性質が不可分(例えば車など)のときに適用される規定です。
第428条 次款(連帯債権)の規定(第433条及び第435条の規定を除く。)は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。
不可分債権のときは、債権者は全債権者のために全部の履行を請求することができます。例えば、ABCが3人で共同で甲から車一台を購入したとき、AはABCのために甲に対して車を引き渡すよう請求できます。
一方、甲はABCの誰かに車を引き渡せば良いことになります。
連帯債権との違いは、当事者の意思表示などを要しないという点です。債権の性質で自動的に適用されます。
以上、連帯債権と不可分債権の説明でした!
連帯債務と不可分債務
次は連帯債務と不可分債務について見てみましょう。債務者が多数のときに適用されるのが連帯債務と不可分債務です。これまで見てきた債権者が複数のときの反対版です。
連帯債務
民法第436条 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
こちらのポイントは、連帯債権と同様、性質上可分(例えば金銭など)であることと、法令の規定又は当事者の意思表示によることです。
連帯債務の特約がなければ、本来は分割債権となります。
連帯債務の一例として、債権者・甲が債務者ABCに対して3000万円貸していたとします。これが分割債務だと、ABCがそれぞれ1000万円の債務を持つことになり、甲はそれぞれに対して1000万円しか請求できません。もし、B・Cが破産すると、甲はAに対して1000万円しか請求できなくなってしまいます。
これが連帯債権になると、もしB・Cが破産しても、Aに対して3000万円を請求することが可能になります。債権者としては、連帯債務にした方が有利になります。
不可分債務
次に不可分債権の条文を見てみましょう。こちらは債務者が複数人いて、債務の性質が不可分(例えば車など)のときに適用される規定です。先ほどの不可分債権の反対版です。
第430条 第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。
例えば、甲がABCの3人から車一台を購入したとき、甲はABC全員に対して車を引き渡すよう請求できます。ABC全員が甲に対して車一台を引き渡す義務を負うのです。ABCの誰かが甲に車を引き渡せば債権は消滅します。
連帯債務との違いは、当事者の意思表示などを要しないという点です。債務の性質で自動的に適用されます。
最後に
この記事では多数当事者の債権・債務について、対外関係(債権者と債務者の関係)について書きました。
多数当事者の債権・債務については、絶体効・相対効(他の債権者や債務者のアクションが残りの債権者や債務者に影響を及ぼすか否か)や、内部関係(債権者同士・債務者同士の関係)など、他にも重要な論点がありますが、それは別稿にて触れることにします。
【行政法】行政手続法:地方公共団体の適用除外についての整理
はじめに
行政手続法の適用除外は頻出のテーマです。今回は、その中でも混乱しがちな地方公共団体が行う手続等についてまとめていきます。
行政手続法の適用対象(第1条目的条文)
まず、行政手続法の対象については、第1条の目的条文にまとめられています。
行政手続法第1条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
「処分」、「行政指導」、「届出」、「命令等制定手続」の4つが対象です。本稿のテーマではありませんが、この目的条文の「公正の確保」と「透明性」の向上、「国民の権利利益の保護」なども穴埋めなどで頻出の分野です。
地方公共団体における適用除外ケース
行政手続法が地方公共団体において適用除外されるケースは、第3条3項にあります。
行政手続法3条3項 第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。
文字で読んでも分かりにくいですが、図にするとこんな感じです。
処分 | 届出 | 行政指導 | 命令等制定手続 | |
---|---|---|---|---|
法律・命令に基づく | 適用あり | 適用なし | ||
条例・規則に基づく |
まとめ
要するに、根拠が「法律・命令(国)」、「条例・規則(地方公共団体)に基づくかどうかで、適用されるか否かが変わるのは、「処分・届出」のみです。「行政指導・命令等制定手続き」はどちらに基づいても行政手続法の適用はありません。
ただし、適用されないからとはいえ法律の埒外で好き勝手やってよし、ということではありません。行政手続法の規定にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければなりません(46条)。
【行政法】行政不服審査法事件・事件訴訟法の紛らわしい文言整理!重大な損害・著しい障害、公共の福祉関連
行政不服審査法と行政事件訴訟法の紛らわしい文言について
行政不服審査法と行政事件訴訟法には、制度によって「重大な損害」、「著しい障害」、「公の利益」、「公共の福祉」、など、似たような文言が出てきて混乱しがちです。この記事ではそれを整理していきます。
執行不停止原則と仮の権利保護手続き
行政不服審査法、行政事件訴訟法は執行不停止の原則が採られています。違法・不当な処分にもかかわらず処分が続行されてしまうと、私人の権利利益が害されてしまう可能性があります。これを防ぐために、仮の権利保護手続きが定められています。この仮の権利保護手続をするにあたっての条件で、「重大な損害」や「公共の福祉」といったワードが出てきます。
事情判決
行政事件訴訟法には、事情判決という制度があります。事情判決は、処分の違法は宣言しますが、違法な処分・採決をした行政側を結果的には勝訴させるものです。私人の保護よりも、公共の福祉の実現を優先させる制度です。確かに処分は違法でも、今から原状回復するには問題が大きすぎるということです。この事情判決を考慮するにあたって、「著しい障害」や「公共の福祉」といったワードが出てきます。
このように2つの法律とテーマで似たような文言が出て、その文言の1つ1つが結構紛らわしく、どれがどれだったのかが混乱しがちなので、それを以下の3パターンで整理していきます。
3パターンで文言整理
行政不服審査法の仮の権利保護手続
第25条4項 「前二項の規定による審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。」
行政事件訴訟法の仮の権利保護手続
第25条2項 「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。」
行政事件訴訟法の事情判決
第31条1項 「取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。」
損害・障害の程度 | 公共の福祉との兼ね合い | |
---|---|---|
仮の権利保護手続(行政不服審査法) | 重大な損害 | 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき |
仮の権利保護手続(行政事件訴訟法) | 重大な損害 | 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき |
事情判決(行政事件訴訟法) | 公の利益に著しい障害 | 公共の福祉に適合しないと認めるとき |
どの文言がどのケースだったか、というのは混乱しやすいので、是非おさえておきましょう。
【行政書士試験】受験料値上げ(7,000→10400円!!)と、意見公募手続(パブコメ)について
値上げの発見
今年の行政書士試験の申し込みがそろそろ始まりますね(7月25日~)。私もそろそろ案内が出る時期かな~と思い、申し込み案内のページを見に行ったところ、何かに気付きました。
あれ・・・?
なんか高くね・・?
記憶を辿ったけど1万円は行ってなかったはず、ていうか7,000円ぐらいだったよね・・?
と思ったらやはりその通りで、なんと今年の1月に値上げがされておりました!全然気付かないうちの値上げでした・・。1万円行かないお手頃感が良いと思っていたのですが、残念です。
値上げの過程と結果、その感想
値上げの過程で、行政手続法に関連する意見公募手続(いわゆるパブリックコメント)が行われています。
正式名称は「地方公共団体の手数料の標準に関する政令の一部を改正する政令案に対する意見募集」で実施されていました。
e-GOVのパブコメはすでに消えていますが(電子政府を謳うならこの辺をちゃんと参照できるようにしといてほしいものです)、結果については総務省HPで公表されていました。
結果にしても抽象的な文言が連なっており、変更前と変更後で一体何にいくらかかっているか、内訳や数字が全然出ていないので、これだけ見ても果たして必要な値上げだったのかさっぱり分かりません。
数回受験してますが、新型コロナ対策といっても、入口に検温器や消毒があるぐらいで、元々カンニング防止で席間隔は空けられておりますし、会場数にしても一都道府県あたり1~2会場、というのは新型コロナが始まる前からそんなもんでした(東京はやけに多いですけど)。
人件費といっても日本はここ30年ほど賃金が上昇していない国として有名ですし、やはりいきなりほぼ1.5倍というのは上げすぎかなぁと思います。
給料は上がらない一方、資源高などに伴い物価高は進んでおりますし、新型コロナもあり貧困や格差が進行している時勢に酷な話かと思います。算出根拠がオープンなら構わないのですが、これでは全然分かりません。
昨年度は没問疑惑、例年に比べ著しく厳しい合格者数調整の匂いがプンプンする記述採点など、試験の公正さや透明性に疑念が持たれることが頻出しており(沢山出てきますので気になる方はググったりTwitterやYouTubeを検索をしてみてください)、直後にこれでは残念な限りです。
法律の資格である以上公平性や透明性を明らかにしてほしいものです。
意見公募手続について
さて、値上げにあたって行われたのが、行政手続法の命令等を定める手続における「意見公募手続」です。試験の頻出分野なので、別記事にまとめました。
gyouseisyosi-study.hatenablog.com
最後に
日頃パブコメをチェックすることはほとんどありませんが、今回自分に直接関係する身近なことが起きたため経緯や結果を追ってみました。
驚いたのがパブコメ件数131件という点です。このパブコメでは行政書士試験以外の試験(社労士、宅建など)の値上げも含まれています。
行政書士試験だけでも昨年度で47,000人超、ここ5年で見ても例年40,000前後は受験生がいるのだから、関わる人は結構な数になるわけです。
しかしパブコメに意見を出したのは131件と考えると、かなり少ない印象です(社労士なんかもかなり大幅な値上げがされていますね)。
私も全然気付きませんでしたが、自分に関わりのあることでも起きなければパブコメをチェックしたりしない人が大半だと思います。
そうなると、国民の意見を反映するための民主的プロセスではなく、「知らないところで勝手に決められているアリバイ作業」として機能してしまいます。
せっかく民主的な制度として設けられている意見公募手続きですので、行政の誠実な運用と、国民一人一人の参画が大事かなと改めて思います。